江戸末期から脈々と受け継がれた「中津箒 まちづくり山上(やまじょう)」の箒。廃業の期間を経て、もう一度「箒」の文化を継ないで行くために、若い仲間と活動をされています。
今回は中津箒 まちづくり山上代表であり、 六代目の柳川直子さんにお話をお聞きしました。
もう一度、自分たちが作りたいものを作りたい
戦後、生活様式が欧米風になり掃除機が普及した影響を受けて、中津の箒作りはいったん廃れてしまいました。父が亡くなる少し前、戦前に京都に暖簾分けしたお店から、従来の箒と少し違う現代的なアレンジがされた箒が送られてきました。
すでに彼らも廃業していたけれど、本当に自分たちが作りたいものを作りたい、という気持ちで送ってきてくれたのだと思います。
それをきっかけに「まちづくり山上」として箒作りを再開していくことになりました。
種から育て一つ一つを手で作る
受け継がれた「ホウキモロコシ」の種を残すこと、昭和10年ごろに建てられた蔵を残すこと、この2つを同時に取り組んでいきます。ホウキモロコシの種は1年に1回しか採れないので、最初の年は一抱えぐらいの収穫から少しずつ増やして、今では10反の畑で約1年分のホウキモロコシを育てています。
蔵の保存に必要な知識や、箒の歴史を研究するため、武蔵野美術大学の大学院に進学し、そこで職人を希望する若者と出会いました。箒作りの技術を京都の職人や中津の元職人に教わりつつ、技術の継承を目指しています。
当時の職人が72~73歳。あと10年で畑も技術も引き継がなければという思いで、少し急ぎ足でやってきたところもありましたが、ようやくバトンタッチが完了しそうです。
在学中、諸国をまわって集めた様々な箒。掃除だけでなく神事に用いられるものも。
作家活動OK!会社が作り手を支える仕組み
美術大学への進学で痛切に思い知ったことの一つが、美術の道で成功する人は、本当に一握りなのだということ。なかなか専門分野を生かせない学生が多く、彼らを支援していく場があってもよいんじゃないかと、会社を立ち上げました。
小さく「中津箒」と入れてもらえれば、作家活動をしてOKなんです。作家活動をするのにもお金がかかりますが、個展の会場費やDM代など、それらは全て会社が提供することで、「まちづくり山上」という、大きなゆるかかなゴムの中でみんなは活動をしています。
子育ても終わり、両親も皆いなくなった私たち世代が、じゃあ終わったから遊ぼう!となるんじゃなくて、社会に還元したり、若い人の力になるということをしたいという気持ちが私の大前提にあります。
会社として経営をしていくことは大変なことも多いですが、誰かがやらなければこのままなくなってしまうという状況の中、自分たちが続けてきたことが少しずつ認知され、思い描いていた方向に進んできているな、という手応えがあります。
作り手たちが使う材料は全て同じものを使用する。穂先に粒が残っていることも人気のポイント。
忙しい日々にこそ、箒を
今の人は忙しいから、昔のように朝起きたら、部屋中を箒で掃き清める、なんてことにもならないけれど、汚れてしまった時にその場でさっさと掃くことで、今まで2日に1回かけていた掃除機が5日に1回とかに減らすことができるんです。それに音もしないから、マンションでも迷惑がかからない。小さい人がいてもできる。
私たちの箒は無農薬で自然が作ったものなので安心して扱ってもらうことができ、作りもしっかりと編んであるので、経年の変化を良くも悪くも伝えてくれる。そうするとだんだんと愛着が湧いてくる。5年、10年と時を経て長く使っていただくことができることも魅力です。
小さ目の箒もたくさん。
お手入れをして最後まで使い尽くす
箒といっても、大小様々です。私たちの箒は小さいものも多くあります。
ついつい箒は奥まったところにかけてしまいがちですが、ぜひ、目につくところ、すぐ手に届くところにかけて置いていただきたいです。
数年経って、先が減ってきたら、柔らかくなりますけど、もっとコシが欲しいと思ったら、少し先を切ってもらって、だんだん使うと歯ブラシ状になるところまで使えます。細かいところや溝を履くのにつかったり、と用途を変えて使っていくことができるんです。
本来は、何年かに一度で買い換えて、お客様用の上等な畳を掃くもの、玄関の板場を掃くもの、玄関の土間を履くところ、玄関先を掃くもの、そして庭先に〜とだんだんと使い下ろしてもらうといいと言われています。外箒にすると、細かい砂利や砂も集めることができるんですよ。
ワークショップで伝えたいこと
小さい子に箒を持たせると、歯ブラシみたいにこすりつける子がいます。箒で掃くという行為を見たことがないんです。「はらう」「かき出す」という行為も言葉も見聞きしたことがない。ワークショップを通じて「こういう状況なのか」と知ることができました。
「消しゴムやおやつのくず、下に落とさないで机でまとめて掃除をしたら、きっとお母さんすごくありがたいなぁって思うよ」と、子供たちによく話します。箒ができたら今日からお掃除を手伝ってね、世界で一つだけのあなたの箒なんだから、というと子供たちには伝わっているように感じます。
子供達に伝わると家庭の中が優しくなる。優しく掃けたり、お母さん思いやることができたら、お友達にも優しくなって、ゆくゆくは人との関わりもソフトになっていくのかな、と思うのです。そういう小さなことから、周りの人が「箒って便利だね!」と、うちの箒にも目を向けてくださったら嬉しいですね。
これからも丁寧に作り続ける
箒はお掃除の道具だから、それ以上にはなり得ないので、丁寧なものづくりをしていくこと。そしてお客様に「あぁ掃きやすいな」とご理解をいただく、そういう方が一人でも二人でも増えたら、ありがたいな、と思っています。
よくものづくりの方は「海外へ」ってなるんですけど、箒に関して言えは難しいと思っています。日本人はとても綺麗好きですが、建物や気候風土や、建物の構造から考えても、箒は役立ち難いところが多いと感じます。
箒の値段だけをみて、「あら高いわね」で終わってしまう方も多い。それは悲しいな、と思うのです。そう思われないにはどうしたらいいか、というのも課題ですね。
箒が埋もれたものではなく、民具の中に、そろそろ入れてもらえると嬉しいですね。
箒のある空間の佇まいとか美しさとか、それに通じる豊かさとか穏やかさとか。これからも丁寧に作り続け、丁寧にお伝えしていくしかないかな、と考えています。
【中津箒の市民蔵常右衛門】
まちづくり山上(やまじょう)
所在地:神奈川県愛甲郡愛川町中津3687-1
連絡先:TEL/FAX:046-286-7572
WEBサイト:http://shimingura-tsuneemon.biz/
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12/15(金)【船橋】自分だけの豆箒(まめほうき)を作ろう!